Ende der Traumerei2

       
セイクレドの神殿というのは許可無き者、迷いこんだ者が入ると永久に出られない迷路のように
なっているらしい。アディシアは組織であるセイクレドの統括者であるラスリア・ユーグから許可を貰い、
神殿にいられるようになっていた。
居住区の方に移動してから、部屋でごろ寝をしていて感覚的に一時間が経過した。

(調子はどう?)

『そこそこ。元の世界と同じぐらいね』

アディシアは心中でリアに話しかける。
『カルヴァリア』は世界によって調子を変える。ライドウの世界ならば調子が良かったのかリアも元の世界よりも、
良く外に出ていた。鳴海のことを探偵さんと呼び、からかっていた。
念のために調子は確かめておく。アディシアは刃物があればそれを武器に出来るので、『カルヴァリア』が
応答が無くても困らない。困らないが、世界が世界だ。
目を閉じようとしているとドアがノックされた。アディシアはベッドから離れると、
オートロックなので内側から扉を解除しつつ開けた。

「アディシアだな。上の方からお前を案内してやれって来たんだが、ガキだな」

「十三歳だよ。ガキだよ。貴方は誰」

「俺は警備部のイェオリ・エンスクレスだ」

イェオリと名乗った男は身長は百八十センチほどの、右耳にカフスをつけた青年だ。外見は二十代前半である。
真っ白なコートを羽織っていた。白なんて良く着られるなと言うのがアディシアの思いだ。
彼の髪の毛は黄檗色で目の色は朽葉色だ。後ろの髪が首筋を覆っている。

「イェオリさんね。よろしく」

「大人しい奴だ」

「この世界にまだ慣れてないんだよ」

ガキと言われたがガキなのは事実なので否定しない。異世界に行って十三年よりは多く時間を過ごしているが、
まだ子供だ。

「一週間の滞在とは聞いてる。異世界人か」

「らしいんだよね。その時間帯を過ごせば帰れるし。……異世界人は珍しい?」

「この世界の特性上、珍しくはない」

「教えて欲しいんだよ。ラスリアさん、我が世界ぐらいしか教えてくれなかったし」

他のことも教えてくれるはずだったのだが、カフスから通信が入り、アディシアを居住区の部屋に案内してから、
居なくなった。分からないことは聞くと言うのがアディシアのスタンスだ。

「神殿の方を案内しつつ話す」

「好きに歩けとか言われたんだけど、何処に行って良いやらで」

歩き出したイェオリにアディシアは着いていく。一週間をどう過ごすかは歩きながら考えることにした。



礼拝堂内では『不死英雄』が集まっていた。
金髪の少女、オルトルート・ストリンドヴァリに白い少年、もしくは少女であるエルジュビェタ、紫の髪をした少女、ヨアに
白髪赤目のアルビノの女性、ロゼとコートを羽織っているルイスイ・ムシェンユイアン、軍服のようなものを着ている
ヴェンツェル・バウムガルトにこの中で一番背の高いコウ・シリング、彼等は礼拝堂の中央部分に居た。

「設定、いじるよ」

「どうぞ」

オルトに許可を貰い、コウは右足で軽く地面を踏んだ。礼拝堂が明るくなる。柔らかい木漏れ日が天井から差していた。
灯りは徐々に調整されて目に優しい光源となる。アンティークのランプ達は消えていた。コウが右手を前に出すと
映画館のスクリーンほどの大きさの空中に浮いているスクリーンが出た。
まるで映画を観ているかのようにアディシアが見ている光景がスクリーンに映る。
エルジュは二人がけの北欧の家具メーカーが作ったソファーを出すとそこに座った。
隣にはオルトが座り、ヨアとロゼは礼拝堂の長椅子に座った。ルイスイとヴェンツェルは立っていて、コウは
アンティークの一人がけの椅子に座る。透明操作鍵盤と小型のウィンドウを前に展開していた。

「そこそこじゃなくて、本体の調子はかなり良いよね。ライドウの世界と同じ、――それ以上かな」

「あの世界は僕達が具現化するのは上手くいかなかったけどさ」

「本体さんはよく出てましたよね」

ルイスイが口を開く。『カルヴァリア』の調子は非常に良い。それなのにそこそこで終わらせている。
ヴェンツェルとオルトがライドウの世界について思い出していた。大正二十年であったあの世界のことを
アディシアは気に入っていた。

「宿主殿に創造神殿に触れて欲しい。そうすれば彼女の履歴とか掴めるのに」

「……触れて、情報を取るの?」

「ヨアも気がついているだろう。この世界、かなり揺れている」

コウがタイピングをしながらヨアに話しかけた。ヨアが大きく頷く。世界が揺れるというのはいくつかの意味があるが、
地震が起きているとかの意味ではなく、起き上がりこぼしのように不安定なのだ。
世界は安定している場合が多いのだが、セイクレドは違う。

「創造神がアレなせいもあるかも知れねえな。ボク達のせいじゃないだろ」

エルジュが膝に肘を突いていた。世界そのものが非常に揺れているというのは良い結果を生まない。
アディシアが元の世界と呼んでいる場所は揺れることはあるが安定するのも速い。

「来た世界には魂喰らいが完全に発動するまでは影響を薄くしてるよ。でないと、魂が食べられない」

コウが左手を横に振る。その辺りの設定は本体であるリアが受け持っている。

「イレギュラーは避けたいね」

セイクレドに呼ばれたこと自体が想定外だがそれを言えば異世界へランダムで飛んでしまうのも想定外だ。

「飛ばされるはずだった十八禁の世界というと、グロいのかな。メンゲレの実験のサンプルみたいなのが居たりとか」

「メレンゲ?」

「……オルト、お菓子が欲しいなら言って。出すよ」

ヴェンツェルの言うメンゲレはヨーゼフ・メンゲレのことだ。ナチスに所属していた『死の天使』の異名を持つ男で、
数々の非人道的実験を行った。

「エロの意味での十八禁は指輪は飛ばさないだだろう。熟女保健室とかその手のタイトルの」

アディシアが異世界へ飛んでしまうのは右手の中指と薬指につけている『黎明のリング』と『黄昏のリング』のせいだ。
エクストラリングというボンゴレリングの一種であるリングをアディシアは受けついでいる。
どちらか片方だけだとただのリングなのだが両方揃うとたまに異世界へ主を飛ばす。そうなっているのは
制作者である魔女のせいだ。
ルイスイは軽く言っている。他の『不死英雄』もルイスイの意見に賛成した。

「セイクレドは異世界へ行きやすい世界みたいですが、これも創造神さんの望みなんでしょうか」

「望みだろ。大概の人間は望むもんだ。”自分が望む世界へ行きたい”なんてよ。ボクはそう望んだかなんて記憶に無いけど」

オルトがラスリアのことを浮かべながら言う。エルジュは笑いながらオルトに自分が持つ答えを言った。



イェオリがアディシアに説明をしたのはセイクレドの成り立ちについてだ。
この世界は、天界、有幻界、冥界の三つに分かれている。五十年ほど前は有幻界は人間界と幻想界に別れていた。
戦争が起きて二つの世界が統合されて、有幻会に戻ったと言う。
戻ったと言う言い方をしたのは元々は一つの世界だったのが分裂していたからだ。
世界観の違いにより有幻界では今も争いが絶えない。

「ファンタジーと現実を融合したからか」

「俺は幻想界出身だ。セイクレドという組織は世界の秩序を守るというか世界を統括している組織だ」

現実というのはアディシアの居る世界を差すのだろう。人間界を浮かべておけばいいとイェオリは考える。
この世界にもいくつかの国や都市はあるがセイクレドは世界の中心であった。その場所は殆どの者には
知られていない。

「偉いんだね」

「セイクレドの一番偉いヒトが、サクヤと言うんだが、幻想界を導く存在でもある」

歩きながらイェオリは警備部から案内をすることにした。
組織としてのセイクレドで一番偉いのはサクヤと言うことになる。漢字で書くと咲夜となるが、王様のようなものだ。
影の統治者とされている。

「サクヤさん?」

「称号だ」

警備部と書かれたドアが薄く空いていたのでイェオリが開けた。

「イェオリか。ラスリアが連れてきた子を案内してると聞いたが」

「後ろにいる。アディシアだ」

アディシアがイェオリの後ろに出る。警備部の部屋には一人しかいなかった。白いコートを着た長い灰色の髪を
上に上げて髷のようにしている男が居た。
部屋は広くロッカールームが奥の方にあり、会議をするためのテーブルや椅子も置かれていた。

「ヴェスペリアのカラスのヒトだ」

「レイヴンさん……カラスだな」

「名前としてはレイヴン・S・オルトレインだ。俺の世界のことを知っているのか?」

レイヴンというのは鴉という意味がある。アディシアとイェオリが言い合っているとレイヴンは苦笑い気味に言ってくる。

「ねーちゃんとにーちゃんがやってた。テイルズ・オブ・ヴェスペリア。あたしも手伝ってた。この世界に居るんだ」

ねーちゃんは沢田香奈のことであり、にーちゃんは沢田綱吉、アディシアが日本で居候をして居る沢田家の双子だ。
綱吉はアディシアが所属しているボンゴレファミリー……正確に言えばアディシアが所属をしているのは独立暗殺部隊
ヴァリアーだが……の次期十代目ボスだ。テイルズ・オブ・ヴェスペリアはPS3のゲームだ。Xbox360でも
出ている。テイルズシリーズは長いRPGだ。話としては地球とは異なる世界で主人公達が世界を救うために
戦う話である。レイヴンは味方となるキャラクターの一人だ。
キャラクターを呼ぶときは名前ではなく愛称で呼ぶこともあり、レイヴンの場合はカラスだ。

「ラスリアに着いてきたんでな。俺は警備部の一員だ」

「そうなんだ……ラスリアさん、あたしをここに連れてきてくれたの」

「アイツは時渡りの力を持っている。俺の顔になんか着いてるのか?」

アディシアが不思議そうに、もしくは不可解そうにレイヴンを眺めている。

「……ゲームで見るよりおっさん系だなーって」

「酷いな。ラスリアが何かするのだったら関わりたいんだが」

「好きなの?」

「率直に聞く子だな。好きだ」

イェオリはレイヴンがラスリアを好きなことを知っている。
警備部では同僚通しだし、ラスリアがレイヴンを連れてきたからだ。と言うか、所属している者の大半は
ラスリアが連れてきた者である。彼等はゲームやアニメのキャラクターとされているが、イェオリからすれば
人間に過ぎない。一部人間ではない者も居るがひとまとめにしている。

「俺はこれからコイツを案内するので。伝え忘れた。ここは警備部の本拠地だ。警備部はその名の通りのことをしてる」

「なるほど。レイヴンさん、ゲームではお世話になりました」

「どういたしまして」

警備部についてイェオリが伝える。
アディシアが笑顔でレイヴンに右手を出した。レイヴンはその手を掴む。二人は握手した。

「次は、魔術部とかか」

「貴方に任せるんだよ」

セイクレド内の案内をアディシアはイェオリに任せてしまった。イェオリとアディシアは警備部の部屋を出る。
アディシアが大きく息を吸って、吐いた。



「……うわ……」

ウィンドウに並ぶ情報を眺め、コウが顔を引きつらせた。

「本体もレイヴンに創造神の力が流れ込んでいるってのが分かるか」

「分かりますよ。『カルヴァリア』はオーラを見たりする力を主に与えます。……コウ、引いていますが」

『不死英雄』もアディシアもレイヴンにラスリアの力が流れ込んでいることを理解していた。
ラスリアのオーラの色があるとしたらそれがレイヴンにもあるのだ。ヴェンツェルとロゼが無言になった
コウの方を見た。

「本体に言われて、探索の術式を使った。ロゼに指示が行かなくて良かったけど、これは嫌がらせか」

「……変なもの、見たの? 引っかけちゃった?」

「見たよ。今からファイルを送る」

心配そうに聞いているヨアを気遣うようにコウがぎこちなく笑う。
透明操作鍵盤を軽く叩いていき、キーが押された。情報が送られて各々がウィンドウを開く。
本体には送らない。勝手に情報は得ているはずだ。

「カラスは創造神の加護を得ているのか。血の契約を結んだ……眷属か」

血の契約を結ぶと言う術式は魔術の方法ではあった。血の契約を結ぶことにより、力を強めたりも可能だ。
レイヴンとアディシアが握手をしたときにコウがプログラミングした術式が発動してレイヴンから情報を読み取った。
ヴェンツェルが人差し指を下の方に動かしながら文字列を読んでいく。
読んでいくうちに他の『不死英雄』達はコウが顔を引きつらせた意味を理解していった。

「創造神の溢れた力を渡せるのが”癒し手”と呼ばれる存在であり、その存在は溢れた力を受け取ることにより、
老化が緩くなり各種のステータスがアップされる……カラスは癒し手でもある」

「癒し手はその世界に一人しか居らず、創造神は癒し手になる者に無意識に魅了系の術を使用している。
世界が修正をかけているとも取れる」

エルジュとオルトが続けてウィンドウに書いてある文字を言う。情報を全員が読んだ。

「……あの人、カラスを洗脳したの?」

『不死英雄』達の中でレイヴンの愛称はカラスとなっていた。洗脳の魔術があることぐらい全員が知っていた。

「したんじゃないのかな。ぼくはまだ情報を集めるべきだろうとは……、知りたくないけど」

「ルイスイ、君の矛盾している発言だが、気持ちは分かる」

「宿主さんに情報は……」

「聞かれたら本体が渡すだろう」

セイクレドは『カルヴァリア』の調子がいいために情報が掴みやすかった。術式はレイヴンに気付かれないように
発動させた。コウとしてはラスリアの情報が欲しいが、それは本体もアディシアもそうだろう。
ヴェンツェルもルイスイも、オルトもそうだが、呼ばれたとは言え、この世界に、創造神に不安が出てきた。
他にどんな酷い情報を読まされるのかとコウは想い自分を励ますことにした。

「神というのは浮気性だったり、人を殺しまくったり、偶像崇拝を禁止するものだから、この神も範疇内かな」

「補佐するようでしていませんよ。コウ」

「ロゼ、言わないで欲しかった」


【続く】

コウは苦労性ポジションで、アディシアはイェオリはうちのキャラになります。
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