上田城の戦い

        
笹が振られて、直江は過去へと飛んだ。
溶岩が周囲にあるために熱い討伐軍本拠地から飛んだ先は森の中だ。天気は晴れている。
この辺りは天気が正常に動いているらしい。



隣には護衛であるが居た。

「司馬昭さんは……」

「居たな。も、も」

司馬昭を探そうとすると、本人が来てくれた。も司馬昭の記憶を元に仙界の住人であるかぐやの力で
過去に飛んだのだ。上田城が落城することを防ぐために。

「合流するにしてもどうするのだ。私ももこの頃は菊姫様と共に彷徨っていたぞ」

「菊姫のことは伏せておいて、俺が諸葛誕と別れて散歩していたら発見して、行くところがないから連れていくことにした
ってことにしておく。何か言われたら誤魔化す」

「散歩って、周辺偵察とかにしておきましょうよ……」

小田原城を奪還するということを目標に討伐軍は動いている。
にとっては上田城のことは初めてだが、司馬昭は二度目だ。過去に司馬昭は上田城を救援せずに
小田原城を救援しようとして失敗している。上田城も落城してしまった。小田原城が落ちた後で司馬昭は竹中半兵衛と出会い、
夷陵の戦いで一人生き延びた馬超と出会い、生存者を捜していた、菊姫と出会った。
その六人でしばらく共に行動をして、壊滅状態だった討伐軍を何とか形らしきものにしたのだが、人間が死にすぎている上に
武将達も生き残りが見つからず、勝ち目もなく、男性陣が兵を連れて妖蛇に急襲をかけることになったのだ。
女性陣は残されて、本拠地を引き払い、これからのことを考えていると出ていったはずの司馬昭達が帰ってきたのだ。
仙界の住人であるかぐや達を連れて。
そこから縁を辿り過去に戻れることになり、生存者を助けつつ、負け分を取り返している。

「半兵衛が洞口の方に行った。アイツも小田原城へは行かない」

「前はそれでどこも落ちたようだしな」

「菊姫様が上田城について教えてくれたし、まずは諸葛誕さんと合流ですね」

菊姫は上杉軍にいるが元は武田家の出身だ。司馬昭が簡易地図を取り出す。菊姫が書いたものだ。
司馬昭は陥落した上田城には行っていないと聞いた。行けなかったらしい。白紙に墨字で地図には畑や城下町や城が書かれていた。
自分も行った方が良いかと聞いた菊姫ではあるが司馬昭が遠慮をしていた。
も司馬昭から詳しい事情は聞いている。

「喧嘩別れしちまったんだ……方針があわなくて」

「私とが何のために来たと思っている。そこを何とかするためだ。戦力強化もあるが」

「何とかやってみます。頑張りましょう」

「……ありがとな」

半兵衛がを司馬昭の補佐につけたのも、司馬昭が前にしてしまった失敗の補佐だ。半兵衛の方は補佐もいらないらしい。
くのいちだけを連れていき、情報集めを頼んだぐらいだ。
は司馬昭と共に森を出ると、司馬昭が率いている討伐軍と合流する。
司馬昭があらかじめ考えておいた通りに達の言い訳をして通した。
今の世界は妖蛇によって、各地が壊滅していて達のような存在は珍しくはない。
急いで達は司馬昭と共に諸葛誕達が率いる軍へと追いつく。司馬昭が馬に乗せてくれた。

「張遼さんだ。左近さんも居る。聞いた通りだ」

「待ってくれ――!!」

の視界にも諸葛誕達が見えた。は諸葛誕には逢ったことはないが、彼が諸葛誕だと言うのは分かる。
魏に居たときに世話になった張遼や、知り合いである島左近の姿も見える。
司馬昭が呼びかけると、諸葛誕が率いる一団は止まる。

「司馬昭殿!?」

「お久しぶりです。張遼さん、左近さん」

殿……久しぶりですな」

諸葛誕が驚いている。馬から下りては張遼と左近に挨拶をしておいた。

「……司馬昭さん、アンタ、小田原城の救援に行ったのでは……」

「小田原城の救援はやめだ。で、コイツは……道中で助けたんだ……」

左近が言う。諸葛誕向けに司馬昭はの紹介をした。

「直江です。助けられて……」

「か弱き女性を貴方は戦場へ連れて行くつもりなのか」

(何処居ても同じですよ……今の状況……)

は心中で想う。
諸葛誕が馬から下りて、司馬昭の所へと来た。自分のことを心配してくれるのは分かるが、この時、安全なところは、
存在しないと言っても良い。考えようによっては今はまだあるかも知れないが状況次第ではなくなるのだ。
六人で行動をしていた頃などあちこちを転々としていた。何処に行っても妖魔に襲われた。

「救援を止めたってどういうことです?」

「このまま小田原城救援に行っても駄目なんだよ……」

「駄目とは……」

左近の問いに司馬昭が返すが張遼が戸惑う。何が駄目なのかには分かるのだが左近にも張遼にも、分からない。

「いい加減にしてください。司馬昭殿!? 救援に行くと言っておきながら行かないとは……」

「頼む。諸葛誕、俺を信じてくれ。俺も上田城に、連れていってくれ……」

(司馬昭さん、焦りすぎ……)

未来のことを知っているのは、司馬昭、だ。
諸葛誕や左近、張遼にしてみれば諸葛誕とソリが合わずに別れた司馬昭がいきなり意見を変えるのはおかしいし、
意味が分からないのだ。が手を考えようとするとそこに声がした。

「俺ではなく、俺達も、にしてほしいが、司馬昭殿」



、貴方に言われた通り、先に上田城を偵察してきたが、二つの軍に襲われていた」

突然現れたように見えたのはだ。左近や張遼はのことを知っている。何度か逢っているからだ。
言われた通りとは言っているがはそんなことは言っていない。個人の判断だろう。
いつの間にか偵察に行っていたようだ。
若干焦った様子でが演技だろうなとは想う。は滅多なことでは焦らない。

「二つの軍に襲われているとは……」

諸葛誕が顔色を変えた。が視線だけで状況を動かす、とと司馬昭に伝えてくる。
忍びであることはを知らない諸葛誕にも分かるし、張遼も左近もが忍びであることは知っている。

「遠くから旗印が見えたが一つが袁家。もう一つは董卓だ。まだ本拠地は落ちていないようだが、速く行かないと危険だ」

「そうですよ。みんなで上田城を救援に行きましょう。、ありがとう。みんなで行けば間に合うんだよね」

「はい。ですが、ここで揉めているようでは……」

救援は難しい、とは事実を言う。演技を交えて事実を告げているだけだ。
の義理の祖父も、かつて軍略を教えてくれたホウ統も言っていた。自分が望む結果に状況を持って行くべきだと。

「……我々は、上田城の救援に向かう!!」

「行きましょう。時間が惜しい」

「皆で、上田城を救援するのだ」

「すまない……」

司馬昭が例を言う。気合いを入れ直したのか司馬昭が率いてきた軍に指示を飛ばしていた。
諸葛誕も指示を飛ばしているが、諸葛誕の軍の方が一体感があった。皆が諸葛誕を慕っているような雰囲気がある。

「……諸葛誕殿は真面目だ。自分を卑下するところはあるが、才はある。『世説新語』の記述通りだ」

「記述からだよね……そんな感じみたい。せせつしんご……?」

「宋の時代に書かれた本だ」

にだけ聞こえる呟く。
は戦国時代の知識は多少あるのだが、三国時代の知識はそんなにはない。の方があるぐらいだ。
戦国時代には三国時代のことが書かれた本があり、は読んだことがあるらしい。
何処で読んだかまでは教えてくれなかった。

「室町ぐらいだよね。初期ぐらいの」

室町は室町幕府のことだ。は嫌、と言い、

「そっちの宋ではなく、前の宋だ。東晋の次……」

「……同じ名前の国があるって紛らわしい」

「国名というか地名で……日本で言う越後や安芸を国名にしてる」

三国にしろ、国の名前というか地名である。魏も蜀も呉もそうだ。同じようなところに国が出来れば、同じような
名前で呼ばれる。は黙っていたが魏だって、三国のを含めても七つはあるのだ。
区別として魏は曹魏とも呼ばれているがこれは曹家が作った国で地名が魏なので曹魏だ。孫呉も同様である。

、飛ばすから急いで乗ってくれ」

司馬昭がを呼んだ。も乗馬が出来るがそこそこの腕である。菊姫の方が上手いぐらいだ。
は司馬昭の方へと行き、手を伸ばす。司馬昭が手を掴んで引き上げた。



が司馬昭の馬に乗ったことを確認した。

さん、馬があるのでどうぞ」

走るつもりであったのだが、左近に呼び止められる。馬が一頭あった。良さそうな馬だ。も乗馬は出来るので
馬に乗る。

「助かる」

「で、聞かせて貰いたいんですが、道中で助けられたって嘘ですよね。何を企んでるんです?」

単刀直入に聞かれた。反応するよりも先に先頭が走ったのでも馬を走らせた。

「助けられたのは嘘ではないが」

「今の話ですか?」

今の、と左近は聞いてくる。は嘘ではないとは言ったのだが、その時のことを語らないことがある。
助けられたのは本当ではあるが、今で言う未来であり、で言う過去だ。

「あのまま司馬昭殿が小田原城に向かったとしても、間に合わないし、上田城も落ちる」

「断言してますね。さん」

「私達にとってはあったことだからだ」

左近にならば伝わるだろうと、言い切る。

「あったこと……?」

「張遼殿、私達が知る歴史ではそうなる……それを何とかするために来た。救えてから、後は言う。力を貸して欲しい」

張遼が不可解な顔をしているが予想済みだったので押し切る。先に協力を取り付けられそうな所はつけてみた。
左近が自分達が示し合わせてここにいることを察せているだろうから、話を進めてみた。

「なるほど。憶えておきましょう。落ちた原因は解らないんですね」

「戦力を二分したことが原因の一つだろうが、が言うには遼来来があったはずなのに……と」

「夢がこもるのは分かるが遼来来があっても、落城するときはしますからね」

左近は納得してくれたようだ。不可解すぎることではあるがは嘘は込めなかった。事実ばかりだからだ。
上田城が落城した原因は諸葛誕と司馬昭が戦力を分けたことだろうが、原因はその他にもありそうだった。
遼来来は孫呉で畏怖されている逸話であり、戦国時代でも伝わってきている話である。張遼の強さを顕していた。
馬を走らせていると、上田城が見えてくる。

「兵士諸君、奮闘せよ!!」

諸葛誕の声が聞こえた。
上田城の敷地内へと入ると、中は妖魔兵や妖魔が暴れていた。

「おお、何と立派な城なのだ。袁紹様の新たな居城に相応しい」

「菊姫様が聞いたら怒りそうな……」

「絶対に怒る」

「怒りますね」

袁紹軍の将の言葉に前を走っていたと司馬昭、が反応を返した。
言葉が言われた後で司馬昭が馬でその将を轢いていたが、事故にしておく。

「世の混乱に乗じ、狼藉を働く不届きな輩め。粛正してくれる!」

「はは……、相変わらず、お堅いことで」

諸葛誕の気合いの入った声と奮い立つ諸葛誕率いる兵に司馬昭は苦笑をしていた。

「……うちの義父、ここに居たらさっきの言葉に義と愛を足した感じのことを言いますよ」

「兼続殿はそうだろうな。馬超殿が居たら正義の槍を受けてみろ……だろうし」

「……個性だな。個性」

は平然と受け止めていた。
諸葛誕のことを余り知らないこともあるが、それ以上に強烈な者達を知っていた。上杉軍がこの場にいたならば、
闘争と義と愛で殲滅していくだろう。壊滅してしまった上杉軍のことを思い出したのかの顔が暗いのをは見る。

「諸葛誕さん、兵達に指示を出した後でまずは合流優先で」

(拠点にしているのは……)

左近が突っ走りそうな諸葛誕を諫める。諸葛誕や司馬昭が兵達に指示を飛ばす中では拠点を確認した。
菊姫が書いた地図を思い浮かべつつ、袁紹軍や董卓軍の位置を把握していく。

「袁紹軍と董卓軍は共闘をしているようではないようですな」

「個別に襲ってきたようだ」

張遼が言うように董卓軍と袁紹軍は組んでいるわけではない。互いに争っていた。そのままたちは上田城の前へと
まずは向かった。



司馬昭は上田城の前へと駆けつけた。馬から下り、愛用の刀を持ち、走る。

「元姫!!」

「子上殿」

生きている、元姫が居た。右手には金票を握っている。地面には妖魔軍の兵が何人も倒れていた。

「無事だったか……」

ほっとした。
元姫は一瞬だけ目を見開いた後で、視線をそらせる。

「子上殿に心配されるなんて、私もまだまだね……」

「可愛げがねえな……」

司馬昭が頭を掻く。このやりとりも久しぶりだ。もう、出来ないと想っていたやりとりだ。

「お二人さん、痴話喧嘩は後でね」

左近がやってきた。痴話喧嘩をしているつもりはなかったのだが、そう見えたらしい。

「援軍か」

「ああ、俺は司馬子上……援軍はまだ来るぜ」

「太史慈殿ではないか」

両手にバチのような鞭を持った赤を基調とした鎧を身に纏い、兜を被った男が居た。後から来た張遼が太史慈と呼ぶ。
太史慈のことは司馬昭も聞いたことがある。孫呉の将だ。

「無事に合流は出来たようだな」

諸葛誕も来る。合流を優先したために速く集まっていた。後は、

「まずは一安心か?」

「……司馬昭さん、良かったですね……」

司馬昭にとっての援軍であるも来る。は杖を握りしめていて、は手ぶらだ。
に司馬昭は気を抜いたように笑う。

(ここまでは良いか……)

合流までは出来た。これから上田城を救援しなければならない。前は救えなかった上田城をだ。

「貴方たちは……」

「私はで、彼女は直江、道中を司馬昭殿に救われて、何処にいても危険だからと、ここに」

(さすが忍者……芝居が上手い)

も元姫のことは知っている。司馬昭が話し続けていたらだが、余計なことを悟られないように、
今悟られると混乱が来るので、体裁を整え、状況を伝える。

「上田城の救援、手伝います……袁家と董卓軍に襲われて居るみたいですけど」

「袁家の方は妖魔と一緒よ」

「討伐軍と妖魔と一緒の袁家と董卓軍で……袁家と妖魔は共闘していて、董卓軍と袁家は共闘していないと」

が状況を整頓する。
上田城は袁家と董卓軍の襲撃を受けていて、両方を退けなければいけない。
策を考えようとする中で、声が聞こえてきた。

「讃えよ!! 袁本初の来着である!!」

「さぁさ、董卓よりも先に城を落としましょう!!」

「あの城に美女が居るらしい、引っ捕らえて董卓様に献上するのだ!!」

袁紹が来たようだ。美女が居て、董卓に献上しようと言うが、

「献上とは……元姫殿か……も入っていると危険だな」

「自分も入れろ…………」

なんのことだとが疑問の視線を向けてきている。
本人の意識が薄いようだがも美女だ。元姫が美女なのは司馬昭も認めている。は可愛い部類に入るが、
そのことは言わない。視線が痛くなってきた気がした。

「敵は共闘をしているわけではない、か。ならば、それを利用して各個撃破を狙おう」

「ならば、私が囮となって董卓軍を引きつけましょう。その間に、袁紹を倒してください」

「たおやかな女性を囮に、とは気が引けるが、現状では、それが最良か……」

諸葛誕が策を言った。袁紹軍と董卓軍は別々の軍だ。それぞれを相手にして倒せばいい。
袁紹軍と董卓軍、どちらを優先するべきか……、決めたのは元姫だ。董卓軍は美女を狙ってきている。
元姫が囮となって引きつけている間に袁紹軍を倒す。

(俺が居なくてもこうなったんだよな……)

司馬昭やが居る以外は同じように進んだはずだ。司馬昭は負けた理由を思案する。
諸葛誕と張遼と左近が援軍に来て、各個撃破を狙い、実行しようとした。

(囮は、元姫だけで……)

元姫だけが囮となった。
理由は相手を油断させるためだ。仮に誰かが護衛に付いていたとしたら、太史慈や左近や張遼は歴戦の将だ。
諸葛誕は袁紹軍の相手をしただろう。
一つの危惧が、浮かんだ。

「「援軍か」」

司馬昭の声にの声が重なる。も考えてくれていたようだ。

「董卓軍に援軍が居て、崩されて終わった……?」

が続ける。
上田城にいる者達が知られていて、こちらが打つ手を相手が読み取り、念のために残しておいた兵で追撃されたとしたら、
持たない。

「恐らくそうだ。諸葛誕殿は予想できなかったのだろう」

「……アイツ、視野狭いからな。左近も……無理だったんだな」

「能(よ)く敵人(てきじん)をして自(みずか)ら至らしむるは、之を利すればなり……ですけど」

「餌兵(じへい)を食らう勿(な)かれ。向こうがそれを想う可能性を失念したのだろう」

「……囮の方をどうにか……」

諸葛誕は視野が狭いところがある。相手が全ての札を出したと思い込んでしまう可能性があった。
が引用したのは孫子の兵法であり、元姫が囮になることで董卓軍を引きつけることを差していて、
も孫子を引用する。囮の敵兵に飛びついてはならない。と言う意味である。
元姫が悪いわけでも諸葛誕が悪いわけでもない。最善を取ろうとして、取れなかったのだ。

「囮ですけど、私とも一緒に。少しは足しになりますから……」

「貴方方もか……」

「……護る余裕、無いですよね……何とか持たせます。、少し戦闘できるし」

決まってしまいそうなときにが割り込んだ。も囮として追加する。周囲からは保護されたとあり、
諸葛誕にしてみれば戦場に巻き込むわけにはいかなかったし、この戦いが対策を講じておかないと、
負けてしまうと言うことを知るのはごく一部だ。

「少しだけですけど……壁にはなれますよ」

が微笑する。芝居だ、これは芝居だ、と司馬昭が想う。こちらは勝ちを持っていきたい。そのためならば、
伏せるところは伏せている。

「それならその作戦で行きましょう」

「子上殿、貴方は袁紹を攻めて、こちらは大丈夫だから……」

左近と元姫が同意する。援軍が居る可能性に気付いているのは司馬昭とだけだ。

「戦いの地を知り、戦いの日を知れば、則(すなわ)ち千里にして会戦す可(べ)し……」

司馬昭にだけ聞こえるようにが告げた。戦いについて知っておけばそれが離れていても対応できるという意味だ。
援軍は予想が出来ているし、外れていても囮は続けて、その間に司馬昭達が袁紹達を倒す。

……」

「……かつてのとおり、で……左近殿や張遼殿にこちらの事情は軽く説明しておいた」

作戦が始まる。
の一言で司馬昭は気合いを入れ直した。左近についても受け取る。
女性陣が董卓軍の方に向かう。案の定、董卓軍は元姫達の方を追ってきた。

「王元姫殿は大した才媛だ。おまけに度胸もある」

「ま、だから、俺の立場がないんだけどな」

「袁紹様! 奴等が来ました! 名族の力、見せてやってください!」

司馬昭達の前に袁紹や妖魔が立ち塞がる。司馬昭はすぐに敵の数を数え、倒し始めた。



王元姫はについて計れないところがあった。
は軽装であり、は両手に杖を持っている。については聞いたことがあった。
魏軍にいた者であり、曹操が彼女のことを褒めていたらしい。
この融合世界が出来たときに元姫は司馬師や司馬昭と共に行動していて魏軍には居なかったし、
遠呂智が蘇ったときも元姫は別の場所を護っていたのでとは直接会っていない。

「上手く引き寄せられているな」

「子上殿達が袁紹軍を倒すまでの時間を稼がないきゃ。本気を出さずに居るかも知れないけど」

金票を元姫は二人の董卓軍の兵に投げた。が杖を地面に突き立てると、前方に風が起きて董卓軍の兵達を
後方に飛ばした。も二本のクナイを取り出して、片手に一本ずつ持ち兵を斬っている。
囮が目的なので位置を陣取り、董卓軍の兵を倒す。董卓や将はまだ来ていないようだ。
を守りながら応戦している。このままでも、持ちこたえられるはずだ。

「それは無い」

「無いですね」

「……どうして、言い切れるの?」

元姫の愚痴のような呟きをも否定した。

「来たな」

その答えはの声によって導かれる。董卓軍の兵が、将と共に現れた。それも、数倍に追加されて。

「援軍……!?」

「……戦線、持つ?」

「持たせる」

の声もの声も平静だ。驚くことはなくはクナイを両手から消した。

「豚に使われる私ではないが……、恩を売っておいて損はあるまい」

「……鍾会殿……」

兵を率いて現れたのは、茶色い髪が癖毛のようになっている青年だ。
鎧を纏っている。側には三本の両刃の剣が浮いていた。鍾会は魏での同僚だが、董卓側に着いたとは、
有り得ない話ではなかったし、状況によっては予想が出来るようなことではあったが、彼が援軍を率いてきて、
それにより劣勢になってしまった。

「哨戒?」

「鍾ヨウ、知ってます? 鍾ヨウ体の……その人の息子……」

「曹丕さんにあっちの文字の練習で手本を渡されたけど……そうなんだ」

鍾ヨウは鍾会の父親であり、数々の書を残している。が知らないようだったのでが教えていた。
と元姫の前に立ち、困惑と、予想外といった表情を見せている。

「兵法を囓れるものが、あの董卓軍にいるとは……」

あの、をは強調した。油断していた、と鍾会は嘲りを見せているが元姫は矛盾に気がつく。
来たと言っておきながら困惑しているし予想外としている。は黙って、と元姫に視線を送る。

「英才教育を受けた私だ。各個撃破などは予想できる。後は油断しているところを突けばいい」

「諸葛誕殿は予想できていなかったな……天才、か……」

鍾会を褒めるようにしながらも、悔いるようにしながら、は無表情で立っていた。



董卓軍に援軍が来たことは袁紹軍を相手にしている司馬昭達にも伝わった。

「……敵に援軍だと……?」

「敵に援軍だと!? こ、このような時は一体どうすれば……」

太史慈と諸葛誕が援軍が来たことを聞いた。諸葛誕は狼狽えている。援軍の可能性があることを失念していたようだ。
狼狽えは一般兵にも広がる。

「――狼狽えるな!! このまま袁紹軍を壊滅させる!!」

「し、しかし向こうの戦線は……」

なら持たせる。こっちに集中しろ」

かつてのように、とは言った。
自分の判断の誤りで護りきれずに、無くしてしまったときのこと、半兵衛と出会い、馬超と出会い、や菊姫と出会った。
人間よりも妖魔が多くなり、日々を生きるだけでも大変だった。
生き延びるために戦ってきた。

「その通りだ。袁紹軍を倒し、董卓軍を倒す!!」

「やりましょうや」

張遼が兵を鼓舞し、左近も斬馬刀を構え直す。

「妖魔と共存するという崇高な目的を理解出来んとは……」

「助けたい奴と、俺を信じて待ってくれている奴等が居るんだ。聞いてるヒマはねえ」

袁紹は妖魔に騙されているようだが、今の司馬昭にはそのことを気に留めておくことはない。後で憶えておくことだ。
作られた時間の中で削って入っているがまだいる。この戦線を安定させないことには、董卓軍の所へ行っても、
共倒れだし、背後から強襲される。
思い出すのは、かつてのこと。
自分を殴ろうとしてきた妖魔を司馬昭は両手に刀を握り、二つに割った。



(……鍾会……)

は王元姫や直江を庇うように前に立ちながら、脳内から記憶を呼び起こす。
かつて、自分が仕えていた主と同じ名を持ち、同じ立場で居た男の部屋で三国時代の本を読んでいた。
鍾会に関する記述も憶えている。
魏の後期の武将であり、蜀を滅ぼすときに貢献した者である。が、魏が晋となったときに反乱を起こし、
殺されている。

「鍾会殿が董卓の援軍だなんてね」

元姫は呆れているような口調でありながらも、声が険しかった。援軍を持った董卓軍は勢いを増している。
戦い方によっては自分達がやられてしまうと言うのを察していた。

「……鍾会の鍾が鐘に見えてかねかいと呟いたときにあの方に苦笑されたな」

「何を言っている」

「日本語の問題だ(……討伐軍の敗因の原因はあの男か)」

は言うが、鍾会に怪訝な顔をされる。
心中で呟きながらは視線を気にせずに思考を纏める。に視線をやれば、も同じことを
想ったらしい。そうみたいだ、と言う風に頷かれる。
司馬昭と諸葛誕が袂を分かった後で、袁紹軍と董卓軍に襲われ、袁紹軍を相手にしている間に董卓軍が、
援軍を持って来てそれに押されて負けたのだ。勢いというのは重要である。

「余裕が無いようだが……」

距離は開いているがすぐに詰められそうだし、包囲が狭まれてきている。

、司馬昭さん達、すぐに来られそうにない」

が伝えてくる。
袁紹軍には妖魔も居るらしく、敵の数が多い。男性陣は向こうにかかりきりになっているようだ。

「司馬昭殿達をアテにしているようだが残念だったな。来られるわけがない」

「今はそうだな。だが、期待もしていないし、頼りにもしていない」

突き放すような言い方をしながらもは体の力を抜く。守るべきは二人であり、倒すべき敵は数えない。
倒してしまえば皆同じだ。

「信用がないようだな」

「用いはしない。信じているだけだ。私の役目は失わせないことが一つ。それに司馬昭殿は必ず来る」

は笑う。鍾会を挑発するように、絶対に変わらない事実を告げる。

「負けませんから、私達、取り返していきますから、みんなで」

「何を取り返すというのだ!」

が杖を握りしめて言う。不快そうにした鍾会が左手を振ると、一斉に董卓軍の兵士が槍や剣を持ち襲い、
矢を飛ばす。

「――失ったものだ」

力を抜いていたは右足を前に出し、左手を下に向ける。
突き出されそうになった槍が、振り下ろされた剣が、飛んできた矢が、金属の壁によって防がれた。
その壁は、ただの壁ではない。
細い鎖が幾重にも縦連なり、壁となったものだ。
三メートルほどの鎖の壁をは飛び上がり超える。彼女の左右、すぐ後ろの空間を突き破るように出ていたのは、
二本の鎖だ。鎖は両方とも太く、先端が八角錐型となっていた。
右の鎖は董卓軍の兵の鎧に刺さる。兵を先端とし、鎖が無造作に兵ごと董卓軍兵士達に当たり二十人程が、
地面に倒れた。

「何処から鎖が」

鍾会は傍らに浮いている剣、飛将剣を動かす。指示するように右手を動かせばその通りに剣が動くが、
が操る左側の鎖に弾かれる。右側の鎖は纏まって攻撃してきた五人の兵をはじき飛ばす。
次の二人は鎖によって地面に落とされた。
徒党を組んでも、は鎖で徒党を崩し、砕いていく。

「剣が浮いているとは、非常識だ」

「貴方が言える台詞かしら……」

「私は選ばれた人間だ。いずれ私がこの世界を動かすのだ」

「いずれ、だろう。今は私達が動かす」

はっきりとは言う。元姫がそんなに言葉をかけていた。
鍾会の浮いている剣も武器としてみれば非常識の部類に入るが、の空間から出る鎖というのも、非常識だ。
元姫も四本の金票を合間合間に投げては兵を倒していく。
鎖は鍾会の剣に攻撃を加えていた。は元姫やを護りつつ、距離を保っている。

(非常識ばっかりだけど、この世界……)

はと言うと、杖で綾御前に教わったように結界を張っていた。は相手を攻撃するのは苦手であり、
そのためにが居るようなものだ。もそれを知っているし、納得している。
鍾会がに対する攻めの手を止める。

「見ていろ。――出でよ!」

鍾会が髪を弄った後で右手を地面に落としてから上げた。
地面から大量の剣の影が現れて、上って行く。数十秒、攻撃は続いた。剣の影が止んだとき、
そこにはと元姫だけしか居ない。は肩で息をしていた。鍾会の攻撃に耐えきったのだ。
鎖の壁は全く出ていない。

「ありがとう。

細くなった左側の四本の鎖が、元姫が使い、落としていった金票を絡め取る。は、右手の鎖を鍾会の右腕に絡めた。
折らんばかりの勢いでは右腕を動かすと鍾会が引っ張られる。左の鎖をは束ねるようにすると、
固定した鍾会の胴体を勢いよく打ち殴り、はそのまま鍾会の飛将剣を左の鎖で叩き折る。

「盛大に行く」

右手の鎖で鍾会を跳ね上げる。空中で受け身が取れないように跳ね上げられた鍾会には左右の鎖を操作して、
彼を砕くようにして攻撃を当てた。更に打ち付けて遠くへ飛ばす。悲鳴は聞こえなかった。
空を放り投げられた鍾会は数メートルを飛んでいき、落下していく。

「……盛大って……本当に盛大ね」

盛大と言う宣言通りにやってみたのだが元姫はやりすぎのような想いを込めて、言葉を止めた。
言っても無駄な気がしたのだ。

「やりすぎじゃ、ない?」

「あれは上田城敗北の原因、これだけやっても良い」

元姫の代わりにが言うが、の言葉に困りながらもとりあえずは頷いていた。
によって鍾会が倒されたことで援軍の兵士は恐れをなしていったのか次々と逃げていっていたが、は深追いはしない。
耳を澄ましながら、鍾会を飛ばした鎖を自分の手元に引き寄せる。

「死んでないよね」

「選ばれた人間ならば死なない。――天に見放されるまでは」

鍾会の生死が気になったが聞いてくる。
にとっては当然のことを言っていた。別に鍾会が選ばれていようが選ばれていなかろうが、
構わないのだが、天が選んでいるのならば生きているだろう。は正面から来る蹄の音を聞いた。
攻め込まなくても、向こうから来たようだ。

「噂の美女は何処だ!? ……おお、こんなところに居たのか!! ワシの酒池肉林実現のために……捕らえてやろう!!」

「董卓さんが来た」

馬に乗っていたのは髭を生やした丸々と肥った男だ。董卓である。腹心の将や連れてきた兵もいた。
逃げたはずなのに董卓が来たことにより巻き込まれた兵も居た。
は音を聞いている。

「美女揃いじゃ」

「……鍾会殿と言い、董卓と言い、こんな状況でもぶれないなんて」

元姫が金票を構える。
董卓は距離を取っているが、すぐにでもたちの方につっこんできそうであった。が怯えていることをは感じ取る。
捕まれば酒池肉林に使われる。元姫が言うことには同意しつつ、は鎖に力を伝える。

「抵抗すると承知せんぞ!!」

「承知しないとか言われてもしますよ!!」

「そうよ」

も元姫も董卓の酒池肉林の犠牲にはなりたくはなかった。元姫が金票を投げる。董卓は持っていた爆弾を投げて、
金票にぶつけた。爆弾が弾ける。が爆風に紛れて鎖で董卓を狙うが、側の副将が鎖を弾いた。
弾いた鎖が董卓の馬に当たり、馬が暴れる。董卓が馬に気を取られた。
は近付く音に、呼びかけた。

「雑魚は私が倒そう。思う存分やってくれ。――司馬昭殿」

「助かるぜ。!」

右手を振ると細い鎖が幾重にも現れ、束となる。副将の顔面をは殴った。背後から走ってきた司馬昭が飛び上がると、
董卓に持っていた刀で一撃を加える。

「子上殿」

「無事だったか。元姫」

司馬昭は元姫に笑いかけた。司馬昭の一撃で落馬した董卓が起き上がる。

「向こう、片付いたんですね」

「お前等が時間を稼いでくれてたお陰でな。でもって、半兵衛からの伝言だ。洞口の確保に成功。本拠地で会おう、だと」

話ながら司馬昭は董卓が投げてきた爆弾を刀で打ち払う。
洞口の確保に成功、元姫達にとってもこれは朗報だが、にとっては元姫達以上の朗報として聞こえた。

「未来は変わるんだ」

の言葉をも司馬昭も実感する。未来を変えることが出来る。は右手の鎖を董卓軍の兵に叩きつけられるだけ、当てた。

「……ワシの酒池肉林の邪魔を……!!」

「俺達も朗報を本拠地の菊姫達に持って行こうぜ。、雑魚は頼む」

「やる気だな。司馬昭殿」

董卓が爆弾を投げてきたが司馬昭はそのままでいた。が鎖を操り爆弾を逆に董卓の方にトスした。
トスされた爆弾は董卓軍の兵達の所に落ちて、爆発する。
司馬昭は董卓に距離を詰めて、刀で何度も斬りつけると大きく斬ってから、板のように董卓の上に乗り、滑っていく。
が右手を横に振ると、地中から出た四本の鎖が董卓軍の兵達を払った。

「受け取ってくれよな!!」

離れた董卓が立ったときに司馬昭は追撃を入れる。気の固まりを産み出すと気ごと董卓を蹴った。
気の固まりと董卓と周辺にいた兵士達が吹き飛んだ。

「おのれ……ワシは諦めんぞ!!」

董卓は諦めたのか、そのまま逃走する。董卓軍の兵達は散り散りにに逃げていった。出している鎖をは全て消す。

「何とか勝てたみたいね……」

「勝てましたね」

元姫とが力を抜いた。戦場の空気が消えていっていることをは感じる。
上田城を護りきることが出来たのだ。

「はー……疲れた。久しぶりに、力いっぱい本気を出したぜ」

「出すときに本気は出すものだ。援軍は……鍾会殿だったが、噂に違わず……成り上がりたいようだな」

噂と言ってみたのだが、実際は本で読んだ記述だ。鍾会は野心家であったらしい。
鍾会の名を聞いて司馬昭は力を抜いて呆れた。

「……原因は鍾会だったのか。だからって妖魔に着くか? ……馬鹿め」

「同意する。……しかし、馬鹿め、か。その言葉を聞くと司馬懿殿と親子と感じるな」

「そうか?」

が少しだけ笑う。司馬昭も釣られて笑っていた。

「一息ついたところで、戦後処理しないと……」

「……任せていいか?」

「嫌ですよ。やれって言われたらやりますけど、この討伐軍に加わるの初めてなんだし」

杖を握りしめた状態でが話した。司馬昭が疲れた表情を見せる。戦争というのは戦いの始めと終わりが肝心だ。
討伐軍であっても例外ではない。上手く処理をしておかないと後々の禍根になったり、障害になったりもする。
は戦後処理は得意な方であるが、上田城の機能が分からなければ出来ない。

「それよりも子上殿」

「何だ。元姫」

「事情を説明して貰いたいんだけど」

金票を懐にしまった元姫が司馬昭に告げた。司馬昭が凍り付く。が声色から判断するに、元姫はどうも怒っているようだった。
傍らのは見る。は何かを納得していた。



上田城前に戻り、司馬昭は元姫達に事情を話した。
自分が未来から来たことや、上田城が落城をして、小田原城も落城することなど、すぐには信じられない話をした。

「そんな荒唐無稽なことが……」

(だろうな……)

諸葛誕の言うことが分かる。正論だ。

「この世界は何が起きても不思議じゃない。未来から来たというのもあり得るでしょう。……勝ちを取るために、
いくつか芝居もしていましたからね」

「芝居?」

「司馬昭殿、さんやも未来から来たんです。上田城が落城した未来からね。その結果をかえるために過去に来た。
仲違いした時、諸葛誕殿、さんやの言葉で司馬昭さん達も救援に向かうことになった。それも芝居です」

説明に補足を入れてきたのは左近だ。司馬昭と諸葛誕が仲違いをしたのが落城原因の一つであるならばまずそれを無くした。

「偵察は本当にしたぞ」

「して、状況を確かめたんですね。合流してから上田城の落城理由を考えて、理解した」

誰もが左近の説明を聞いている。

「……分かったのなら、どうしてそれを伝えなかったの? 子上殿はめんどくせ、かしら」

「めんどくせ……って……」

「……めんどくせ? 口癖か?」

「……半兵衛さんみたいです」

元姫が伝えなかったことを責めている。司馬昭が頭を掻いていたが、は疑問を言った。も同じ疑問を持つ。
沈黙が生まれた。
司馬昭の口癖がめんどくせ、であることは左近や張遼、諸葛誕など司馬昭に関われば知っている。
だが、二人はそのことを知らない。

「言える状況じゃ、無かったからな……口癖なんだぜ」

「司馬昭さんはそれもあったかも知れないけど、今回はすいません。勝つためだったのであえて話さずに……時間が無かったのと、混乱を生んじゃうから……あちこち嘘をついて……囮役になったのは董卓軍の兵力寄せるのもあったけど」

「能なるも之に不能を示せだ」

「貴方、卑(ひく)うして之を驕(おご)らせよも混ぜていたわね」

出来ることを出来ないことにして、鍾会との戦いではわざと苦戦したフリをして、油断させた。
孫子引用で策が説明されていた。

「……この二人は……」

殿は曹操殿にかの蕭何に匹敵すると言われるぐらいの者、殿は護衛であり、忍びとしての腕は一流……」

諸葛誕が呆然とする中で張遼が言う。蕭何は前漢時代の功臣だ。劉邦が漢を立てたが蕭何の働きは非常に大きかった。

「そこまではないですよ」

「だが、遠呂智によって壊滅した曹魏が速く立て直せたのも、殿が補給を受け持ったからであり……」

(……曹操様に褒められるだけでもすげーんだよな……)

は軍師とすれば攻撃が苦手ではあるが、補給や兵站に関しては得意だし、戦後処理もや準備も得意だ。
元は義祖父である直江景綱に教わったらしいのだが、戦国時代と三国時代が融合したときには上杉軍とはぐれ、
曹操が行方不明になり曹丕に率いられていた曹魏に助けられた。
遠呂智が世界を支配していた頃はどこの勢力も人材不足であり、曹魏もそうだった。の才に気がついた曹丕が、
彼女に仕事を手伝わせ、復旧が早く進んだという。も助けられたことで曹魏と交流を持ち、たびたび訪れている。

「蕭何と褒められたのには鍾ヨウ殿も居る。……鍾ヨウ殿は残念な逸話も多々あるが……」

「……鍾会さんも残念っぽかったけど……親子だね」

「アイツは残念ってか、やれるところはやれるが……そうか、お前も残念って想うか」

「私も想った。……御前と逢っていれば矯正されるぐらいには残念だ」

鍾会の評価はやれるところはやれるけれど残念というのに落ち着いていた。鍾会からすれば憤慨するかも知れないが、
半兵衛のかつての主である斎藤龍興よりはマシだろうとしておく。前に話をしていたときに話題になったのだが、
駄目すぎる主だったらしい。

「鍾会殿の話題はもういいから、子上殿、これからどうするの?」

「上田城は確保できた。戦力も残った……上々だ」

元姫が話を促す。
上田城を護りきることが出来たし、戦力も壊滅していない。けが人は居るが、戦力はまだある。
戦果を確かめると、安堵がやってきた。

「半兵衛殿が本拠地へ戻るように言っていただろう。行って戻って来ても時間はさほど経たない」

「向こうで情報逢わせしたほうが良いですしね」

「そうだな。……ちょっと着いてきてくれるか? 逢わせたい奴等が居るんだ」

が本拠地へ戻ることを提案した。司馬昭が確認を取る。

「救われた命だ。着いていこう」

「本拠地か。分かった」

「そうですね。行った方が他の事も聞きやすそうだ」

「……本拠地というのが何処か分からないが……」

「すぐなの?」

太史慈や張遼、左近や諸葛誕や元姫は本拠地へと来てくれるようだった。司馬昭はに視線をやる。
は懐から符の束を取り出した。

「距離は遠いけど、これを使えばすぐです」

仙界が作った符をは右手で伸ばした。符は術繋ぎとなっていて、この場にいる者達を取り囲む。
囲んだ符は淡く光、全員を本拠地へと飛ばした。


【Fin】

最初は鍾会をぶっ飛ばすだけだったんですが一話分というか忍者の鍾会の履歴はあれであってるというか伏線の一つ。後伏線いくつかだが

もどる
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送