決めることの会議

        
直江兼続は何もない道の空間に手を伸ばそうとした。空間に触れた途端に音がして手が弾かれる。
妲己の提案を聴いた後で竹中半兵衛が、こっちにも準備があると話題を打ち切ってから、消えたのだ。
探してみると、司馬昭や馬超や達も居ない。兵に聞いてみれば会議をしているのだという。
会議とは言っても簡易なものであり、討伐軍が今の規模ほど無かった頃はよくされていたらしい。
兵から会議場の場所を聞いて兼続は行ってみようとしたのだが、途中で道が阻まれた。

「これは菊姫様の遮断結界……」

兼続は知っている。上杉に嫁に入った菊姫が上杉の者から習った力だ。菊姫は夫である上杉景勝から守り刀を貰っている。
その刀を使い発動させているのだ。試しに持っている両刃の刀で空間を叩きつけるが弾かれた。兼続は符も叩きつけてみるが、
弾かれている。遮断結界を張ったのは念のためではあるがこれでは入れない。

「兼続殿の力が効かないとは」

真田幸村が十文字槍を持ち、結界を突いてみるが弾かれている。結界前に立っていると他の者達もやってきた。

「ここはオラーッ! とみんなで力を叩きつけるべきじゃない?」

「確かにここから叫ぼうにもや馬超殿には声が届かないかも知れん! 結界を破るべきだ!」

「そうですね。皆で力を合わせてやってみれば結界が破れるかも」

蛇腹剣を握り、提案したのは甲斐姫である。道はまだ先にも続いていて、兼続達が叫ぼうにも向こうには
聞こえないようだった。

「関東三国志してた家の三人組、抑えて抑えて」

関東三国志とは北条、上杉、武田の関東での争いを戦国時代から見たら昔の三国時代に引っかけていった言い方だ。
制御にかかったのは魏の軍師、賈クだ。

「内緒話していてずるーい!」

「仕方がないさ。彼等はどうやら、酷い地獄を味わったようだからね」

ふくれている小喬をなだめているのは毛利元就である。竹中半兵衛、司馬昭、馬超、直江、菊姫の、
討伐軍の初期の六人は生き延びた六人であるとも取れた。
他の者達はここには居るが、助けられた者達だ。助けがなければ死んでいた。
地獄のような思いはここにいる者ならば誰でもしているような者だが、あの六人はここに居る者達すら、
一度亡くしている。

「連帯感か……厄介なものではあるな」

「それは厄介なのかよ?」

「この場合はそうだろうな。背負える奴が背負っちまって、他に背負わせようとはしないんだ」

黒田官兵衛が呟き、福島正則と加藤清正が話す。連帯感にしろ、感情は度合いによっては害悪と化す。

「子上殿、肝心なことは言わないし、愚痴らないんだから……」

「不機嫌ですね。元姫さん、言わないのなら、聞けば良いんですよ」

王元姫がやや沈んだ様子で結界を眺めた。島左近が愛刀を肩に担ぎながら、元姫に言う。
官兵衛にしろ左近にしろ、彼等が抱え込みすぎようとするならば軽くしたり、支えたいと想っている。
妖蛇の問題は、討伐軍全体の問題だ。

「やはり、結界を壊すしかないようだな」

太史慈だが太鼓のバチのような鞭を両手に持ち、結界を叩いてみるが弾かれる。

「菊姫様、術系に造詣が深いですよね。武田の人だったのに」

「その辺りは才能だったと想うよ」

くのいちが言うように菊姫は武田家の姫であったが武田と上杉が和睦するときに上杉家に嫁いでいる。
上杉で術を教わり、腕を上げたのだ。馬岱も妖筆で絵を描こうとしていた。
妖筆は絵を描くことにより、絵で攻撃が出来る。

「皆、結界を破壊しようとか武力行使しようとしているんだが……」

「武力じゃ破壊できそうにないだろうけどね。……どうするか」

集まってきた者達は事情を聞いては結界を破壊しようとしていた。結界は物理的に壊れそうではあるが、
時間もかかりそうである。賈クと元就の策師二人は結界を通り抜ける方法を模索し始めた。



「先のことを考える会議、司会の竹中半兵衛だよ――!」

「助手の、き、菊姫です」

「半兵衛殿、菊姫様が嫌がっているのにさせない」

久しぶりの会議だと司馬昭は思った。討伐軍の本拠地となっている場所には小高い丘のような場所があり、
そこには自分と竹中半兵衛、馬超、直江、菊姫が居た。討伐軍の初期のメンバーだ。
全員立ちながら話している。
時を戻ったりしているため、複雑なことになっているが始めて妖蛇に挑んだときに残ったのが司馬昭を含めた六人だ。
とは言え、女性陣は妖蛇を急襲するときは危険だからと置いて行ったのだが。

「会議の議題は、妖蛇出現前に戻ったら……ですね」

「妖蛇出現前に戻れることになったとは言え、喜べないな」

が軽く手を上げて議題を言う。が引き継いだ。
小田原城を取り返してからは寿春で助けた太公望の指示で妲己を追ったり、平清盛に操られた者を救出したり、
寿春で会った酒呑童子を捕まえに行ったりしていた。酒呑童子の力と太公望の技術で妖蛇を沈める八塩折が出来て、
これで洛陽を守ることが出来たが、妖蛇の首は八本もあり、今のままでは人材も資材も不足していた。
だが、妖蛇により人々は殺され減りすぎた。
そんな状態の中で妲己は言ったのだ。妖蛇を出さなければ良い、と。
討伐軍は仙界の住人であるかぐやの力で過去に戻ることは出来たがそれは妖蛇出現後までに限られた。
妖蛇の力が強すぎて、時を戻ろうにも一定の範囲までしか戻られなかったからだ。
妲己も仙界の住人であり、力は強い。妲己の過去から戻れば、妖蛇出現前に戻られると本人は言っていたし、
かぐやもそう言っていた。

「……ああ。確かに死んでしまった……父上や兄上に逢えるのは良いが、俺たちは過去に戻れば討伐軍の名目すら無くす」

「それは……」

「妖蛇、出てませんから……」

司馬昭の言葉に付け足すように言ったのは菊姫だ。守り刀である日本刀を両手で抱きしめる。馬超が菊姫の方を見た。

「妖蛇出現前に戻るって言うことは、三国も戦国も争っていた頃だよ。なおかつ、俺達は妲己を守りながら、進まないといけない。
――世界の全てを、敵に回すんだ」

半兵衛が真剣な口調で告げる。
妲己は魔王・遠呂智の腹心であり、三国勢も戦国勢も苦しめられてきた。妲己が妖蛇が出現しない方法を知っていて、
それを実行しようとしているならば討伐軍は妲己を守らなければならない。

「だが、妲己が本当に妖蛇を出現させないように出来るかというのも信用ならん」

「そうなんです。……他の皆さんに協力を要請したいんですが……」

「無理なのか?」

「妖蛇出現前の世界で、もしかしたら妖蛇が出るかも知れなくて、それで世界が滅びかけるかも知れない。だから協力を
お願いしますと言っても」

「信じられない……か」

馬超との会話を聞きながら、司馬昭も考え込む。妲己は信用出来ない。討伐軍がやるのは未来の話であり、
仮定の話でもあるのだ。

「妲己の指定だと司馬昭殿が妲己の護衛、半兵衛殿と馬超殿が各勢力を抑えに行くだが」

が両腕を組んでから、妲己がした話を言う。各勢力を抑えるのは半兵衛と馬超であり、司馬昭が妲己の護衛だ。
妲己を遠呂智の居城であった古志城まで連れていかなければならない。

「司馬昭さんは討伐軍の大将なんだし、それはそれで受けよう」

「受けるのか……?」

「最善だよ。馬超さんは成都まで行って、劉備さん達に話を通せばいいし」

「……そういうならこれはそのまま乗るだな」

馬超が不審がるが半兵衛が肯定する。司馬昭は嘆息を着きそうになりながらも、自分もコレが最善であると想われるので
受けた。司馬昭が討伐軍の大将らしいものになってしまっているのは成り行きだ。
半兵衛は軍師であるし、馬超は上に立つ者と言うよりも最前線で戦う武将寄りである。
は忍者だし、も菊姫も討伐軍の旗印にするには頼りなかったからだ。

「大きな勢力だと曹魏、孫呉、蜀漢、織田、上杉、武田……」

「北条も入れましょう。小田原城を借りてますから」

菊姫が勢力を上げていく。が北条を入れたのは討伐軍の第二の拠点とも言える場所が小田原城だからである。
当主の北条氏康は妖蛇が出現した際に死亡しているが、城の方は討伐軍が生き残りに許可を貰って借りていた。

「その辺りだよね。勢力順に行けば曹魏と織田、以下、孫呉とか続く」

「曹操……」

「……色々あるだろうし、みんな敵になるんだろうが、勢力はかき集めるだけ集めたい……万が一のために」

馬超が持っている槍を握りしめた。この場にいる者達は馬超が自分の一族を曹操に滅ぼされたことを知っている。
司馬昭の言う万が一と言う言葉に全員が黙った。
妖蛇出現が防げるとは限らない。防ぎきれなかった場合の力が必要だ。彼等の知る歴史では妖蛇は次々と国を滅ぼし、
戦力自体を集めることが適わなかったのだ。

「先の動きの予測しておきますか? 私としては現代のこともしておきたいんですが」

「現代の事というと、戦力を整えることか」

「それもありますけど、変わった場所についても……」

「現代も妖蛇出現で変わった。長谷堂に異界、姉川に異界、南中にも、九州にも、定軍山にも異界……」

「混沌だよね。過去のことは一段落したし次は現代の話題に行こうか」

妲己の言う通りに勢力を分けて過去へ行くと言うことは決定したが、現代のことも放っておけない問題である。
勢力は集めたとは言え、このまま維持させて少しは増やしていくのが望ましい。
が上げていくがどこもかしこも異界が戦国や三国の風景と融合、上書きされていた。
半兵衛が呟く。

「定軍山のあの遺跡は見たこともない場所だったな。姉川もそうだったが」

「アレはフランスと摩天楼だからフランスは離れてるし……」

「聞いているよ。定軍山に現れた場所はヨーロッパの風景だとね。フランスという国の歴史にも興味はある」

突如した声にこの場に居る全員が振り返る。が右手を軽く振ると彼女の周辺の空間から鎖が一本現れて、
声の主に攻撃を加えようとしたが符によって弾かれる。

「効かんぞ。! そんな鎖は我が義によってくり出される符の前には効かぬ!」

符で鎖を弾いたのは兼続だ。司馬昭が驚く中で次々と人がやってくる。

「……毛利殿……」

が義父さんを無視した!?」

「会議中、失礼するよ」

は兼続よりも元就の方に気を取られたらしい。会議場には賈クも入ってきている。と言うよりも討伐軍の他の者達が
来ていた。会議場はそれなりに広いが、人が多くなっていくと密度も上がっていく。

「菊姫殿、遮断は……」

「してましたよ」

菊姫が日本刀を再び抱く。馬超も菊姫も結界を通り抜けられた理由が分からない。菊姫が結界を確認しているが結界は破れていない。

「簡単だ。上杉の姫、あの結界は進入を禁止する。ならば、空間から出ると解釈して通り抜ければいい」

「屁理屈だよ。それ」

解説を入れたのは官兵衛だ。彼等は仙界の者に頼んで術を破っても、ましてや力業で破ったわけでもない。
張られている結界が侵入を禁止する結界だと言うのは兼続が解った。
方法に気がついたのは軍師組であった。侵入を拒んでいるのならば自分達が今いる空間と結界が張られている空間を
別だと考えて、いる空間から出てこっちに行くとだけ想い、向こうに入るとは想わずに出るという気持ちを保ったままで
通り抜けた。

(しかしこれ成功したのは頭がいいのが半分とか後は単純が半分では……)

「姫様、結界を解いてくださいよ。来ちゃったんですから」

菊姫が心中で想っているとくのいちが話しかけてくる。気がついた菊姫は握っている刀に意識を集中させた。
張られていた結界が消える。

「司馬昭さん、会議は構わないんですがね。どうせ最後には全員に伝わるんです。みんなで話しましょうや」

「全員に伝えるの。め……」

「……子上殿……?」

方針は決めてから半兵衛やが周囲に伝えるというのが討伐軍だった。
司馬昭は説明が楽なものを説明していたぐらいである。左近に言われ、元姫が静かな声で告げてくる。司馬昭は言うのを止める。

「会議とか言っても、妲己の方針には乗るが、妲己は完全には信用出来ない。討伐軍は過去に行けば討伐軍の名目は無くす。
とだけ話して後は現代について話そうとしていたところだ」

頭を掻きながら司馬昭は決めたことを簡単に纏めた。

「討伐軍が、討伐軍じゃなくなる?」

「妖蛇を討伐するために討伐軍は出来た。でも、妖蛇が出ていない過去では討伐する妖蛇も居ない。
そして俺達は、妖蛇を出さないようにする方法を知る妲己と共に行かなければならない。だが、妲己は三国や戦国の敵だ。
俺達は妲己に味方する者として追われることになる」

小喬が疑問に思ったが、立花宗茂が解説を入れた。隣には妻のァ千代も居る。

「司馬昭殿、全てを決めてないのに現代の方針に行くとは……」

「すみません……決めることが多いときは、大きく決めてから細かく決めていくのが……方針で」

諸葛誕が怒るが、謝っていたのは菊姫である。適度に決めていっては細部を細かくしていくのが司馬昭達の会議だ。
少しだけ置いておき、問題点なども次に考えるときに洗い出していく。
申し訳なさそうにしている菊姫に諸葛誕の方が逆に狼狽えていた。

「決めることが多いとは何だ。現代というと……」

「上書きされた九州や定軍山のことを」

「聖女さんの故郷が定軍山に現れちまった。確かにその問題もあるよな……待てよ。九州も……」

「ネメアさんのところの風景が現れているのよね」

ァ千代が聴いて来たのでが答えた。
九州は九州を収めていた者達に任せようというのがの考えではあり、会議でも話すつもりではあった。
雑賀孫市は定軍山を見てきたので解るが、あの山には聖女、ジャンヌ・ダルクの故郷であるフランスの町並みが
出ていた。九州もネメアが居た異世界の風景が上書きされていた。
立花や島津も領主ではあるのだが異世界化してからは九州には余り帰っていない。
孫尚香が頷きながら言う。

「こういった話を皆でしていくのだが、俺は疑問を言うぐらいしか出来ないのだ」

「確かに会議や軍議となると着いていくのが大変になるときが……」

「馬超殿も幸村も、会議というのは疑問を上げていくだけでも良いのだ!! 義によって説明がされたり方針が決まったりもするからな」

「兼続殿、義で全てを解決するのはどうかと」

馬超と幸村、兼続という暑苦しい三人が話す。が冷ややかに言う。
も知ってはいるが、兼続も会議や軍議の時はしっかりと話すが、今の兼続を見ると忘れてしまいそうになる。

「記録を取るにはどうしようとか、決めないと行けないことばかりで」

「……それもあるな。討伐軍の記録に関してはに一任してるが、の負担が余計に増えるぜ」

が記録について発言したがこれは討伐軍の記録のことだ。会議の記録ではない。戦の記録などを取るようにしているが、
過去を行き来していると現代と過去で書類は多くなっていく。しかし取らなければ変化が解らないし、先々にも使えない。
ややこしくなるために記録は一任し、彼女は記録するときは日付と場所は入れて、渡すときは何時渡したのかなども
伝えるなどで対策を取っているが、記録は膨大だ。

「いっそ、全て決めてしまうか」

「面倒なことは先に全部やっておくべきだろうね」

「ここで決めて、振り分けられるようにしておこう。過去と現在についても組み分けなどもしておけばいい」

「……官兵衛も賈クさんも、元就さんも、さりげなく主導権握ろうとしてない?」

軍師組が決めてしまおうというのには司馬昭も賛成であるが、会議の実権が軍師組に移ろうとしていた。
半兵衛が口を挟む。

「決めることがあるならばすぐに決めるべきだ。立花も付き合ってやる」

「さよう。盛大な博打をするための準備ならば付き合おう」

ァ千代や島津義弘も乗り気だ。
と言うよりも、この場にいる誰もが、会議に参加するつもりである。

(そっか……皆も……)

司馬昭は想う。
過去へ戻るという幸いなようで、大きな困難が待ち受けていることに対しても皆はやる気だ。
現代のことも決めなければいけないし、闇ばかりではあるが、困難にも、立ち向かえそうだ。

「決めましょう。面倒なことばかりですけど」

「……決めるか」

に言われ、司馬昭は決意を新たにする。馬超や半兵衛、菊姫やもそうだ。全員を見回して、司馬昭は新たに
会議を始めることにした。


【Fin】

ブラウザバックで。
出せるだけ出してみようとかで書いてみたけれど兼続や毛利殿が多めというか多いな。初期の六人は連帯感があるってのを書こうとして色々
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