は目の前に居る青年、高遠遙一が凄腕のマジシャンで有り、『地獄の傀儡師』と自称している殺人教唆犯であることを知っている。
そんな彼は二度捕まり、二度脱獄した。
最近、三度捕まった。
「おかえりなさい。高遠さん」
高遠は極悪だ。捕まれば死刑だ。
だが、は彼を笑顔で迎える。高遠はの恩人だ。はある事件に巻き込まれて幼少期の記憶をなくし、高校生になって記憶が枷になり苦しんでいたが、
高遠に救われて、彼を恩人として慕っている。高遠をは部屋に招き入れた。
「ただいま、というべきでしょうか」
三度目の脱獄を果たした高遠はに微笑を向ける。
はマンションで一人暮らしをしている。身内らしい身内はもう居ない。両親は幼い頃になくなって、祖母も中学三年生の時に死んだ。
「異母妹さんについてとか、聞いたけど」
「……電波でした」
殺人教唆をしたり公園で変装をしながらマジックショーを開いていたりする高遠であったが、異母妹が危機だと青薔薇と共に脅迫状をもらい、
逢ったことはないが異母妹を救い……自分のルーツを探る目的もあったようだが……に宿敵らしい金田一一と接触し、彼と彼の幼なじみである七瀬美雪と共に
薔薇十字館と呼ばれる館へ行き、連続殺人に巻き込まれた。
の知り合いが……高遠とそれなりの付き合いがあるカフェの店主……が情報をに教えてくれた。
「高遠さんの口から聞きたい……かな」
「良いですよ。さんも遠慮はしないで。私のことは苦手ですか」
「家族のことは余り触れない話題みたいなのはあるっていうか、学校でも友達とかそれが問題になることあるし、――私も」
「そうでしたね」
苦手だと聞いてくる高遠だが高遠はを気遣ってくれているし、は高遠のことが好きだ。
が通う秀央高校は都内でも有数の進学校で有り、クラスが成績によって決まる。高遠も昔に所属をしていた。調べたらマジック部に入っていたが殺人事件が起きて、
メンバーが殆ど死んだという。そのことをは高遠に思い切って聞いてみようとしたときに、
――高遠さんってマジック部で人を消したんですか?
と単刀直入に聞いたので彼が目を見開いていた。柔らかく言ってみたが、消してません殺しましたがとか話して会話がズレてきて、
カフェ店主がツッコミを入れてくれなければずれたままだった。
(あの人、ツッコミ慣れしてたな……)
「さん、回想ですか」
「カフェ店主さんがツッコミ慣れしていたなと」
「彼女はあんな感じですよ。縁があります。貴方のことを詳しく知られたのも、彼女のおかげですが」
警察とも知り合いが居るカフェ店主だが高遠には恩があるらしく、彼のことを心配していた。が高遠の側に居ることで安心をしているところがあるようだし、
出来る範囲で助けてくれている。
「自分が知らなかったこととか、あのときは本当にあったから」
自分が連続幼女誘拐殺人事件の唯一の生き残りであり、最後の被害者であることをはずっと覚えていなかった。
高遠が息を吐く。
「一晩、泊まってもいいでしょうか。話すことがいくつもあります」
「はい」
は、笑顔で答えた。
薔薇十字館殺人事件の犯人は高遠の異母妹である月読ジゼルで有り、動機は母親の復讐であることをは情報として手に入れていたが、
高遠が語った話としてはバラバラ死体を首だけ皿の上に持って容疑者に見せていたとか、拘束されたが優位に脱出できたとか薔薇風呂に入ったとか、
そんなことだった。
「私の父親、実父があの館を残していたのですが、何をしたかったのでしょうか。宿経営でもしろと言っているのかと少しだけ思いましたが」
「違うような……」
真剣に高遠が考えている。
構造的に犯罪に使えそうな屋敷を残した高遠の実父は生きているのか死んでいるのかすら不明であるようだ。
高遠はリビングルームに座っている。は高遠の隣に座っていた。
「異母妹に関しては……妹のような存在のような子とは数年一緒でしたけど、アレとは天地の差でしたね」
「それぐらいだったんだ」
妹のような存在の子は同じマンションに居るが、高遠のことを忘れてしまっている。記憶喪失になってしまっているのだ。高遠が言うにはドッペルゲンガーを見ているような感じらしい。
仕草などが別であるが本質がそう変わらないらしく双子のようなものと解釈はしていた。も彼女は友人である。
世界は狭い。
「策とはいえ、薔薇の花を手にとって詩を読んでいたりしましたし」
「薔薇はおばあちゃんが好きだったな。実家の屋敷。薔薇がいっぱいあるから」
死んだ祖母が庭師に頼んで作った薔薇の庭は今も実家にある。手入れは頼んでいた。
「赤い薔薇が一番好きですね」
「枯れた白薔薇とか犯罪者って……準備をするのがすごいなと」
殺人は悪いことではある。
しかし、としてはジゼルの行動が気になった。トリックのためとはいえ、枯れた白薔薇を敷き詰めたり、死体に杭を打ち込んだりだ。
「枯れた白薔薇なんですが異母妹が”潔白を失い死を望む”と口にしたんですが、私は別の花言葉が浮かんでしまいまして」
「別の花言葉?」
薔薇は非常に花言葉が多い。
色に葉の付き方から咲き具合までで変わっていくのだ。は色の花言葉はまだ分かるが細かい区分になると不明である。
「生涯を誓うです」
「……そんな意味もあったんだ」
「犯人は女性かと考えましたが、相手を殺して自分のものにとか」
「高遠さん……」
犯罪動機なんて昔に高遠に聞いたことがあるのはアイツを鈍らせてしまうから、彼女を殺したとかあったらしい。それはさすがに違うだろうとは思う。
「薔薇の花言葉、ニュアンスを読み取れは厄介です。以前に私たちが外国にいたときカフェ店主が赤と白の薔薇の花束を受け取ったんですが」
カフェ店主と高遠と同じマンションの住人である少女は共に行動をしていたときがあったという。
「……赤と白の薔薇の花束……」
「相手は結婚してくださいの意味で送ったんですが、彼女は赤とつぼみの白薔薇で解釈し、恥ずかしい少女時代ってなに、と言っていました」
「メッセージカードとかつけるべきだったよね」
察してくださいとされても困る。
濃紅色の薔薇の花言葉は恥ずかしさを意味し、つぼみの白薔薇で少女時代となる。赤と白の薔薇の花束としてみれば、結婚してくださいとなる。
苦笑いをしているに高遠が軽く触れた。
「唐突ですが、さん、貴方に薔薇のメッセージを」
高遠が右手を軽く振ると出てきたのは深紅の薔薇だ。深紅の薔薇を高遠が好むことをは聞いているし、知っている。
「メッセージは」
がそっと薔薇を高遠から受け取る。赤い薔薇はとても濃い紅色をしていた。
「死ぬほど恋い焦がれています。――死にませんけど」
血のように赤い薔薇をどうぞ、とは高遠は言わず、穏やかに彼は言う。薔薇の花をは右手で掴んだ。
「――私もです」
高遠には抱きつき、首筋に手を回す。
優しく高遠はを支え、唇を重ねる。
少しの間、二人はこのままで居た。
【Fin】
このヒロインは金田一達と同じ年齢というか、同じマンションの住人の話も書けたら。
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