Ende der Traumerei3

        
『カルヴァリア』の<化身>であるリアがラスリア・ユーグと出会ったのは、
異世界から元の世界へ帰ろうとしているときだった。元の世界からライドウの世界に飛ばされ、
ライドウの世界から戻れるかと想えば別の異世界に行き、何日か過ごしてから元の世界に戻られるかと言ったときに、
世界の狭間に着いた。
『カルヴァリア』でも異世界移動は出来るが、コストが高いので指輪任せにしている。
指輪は自分を封印した魔女が作ったものであり、時間に関することにおいては信用がおけた。
真っ白な空間で、ここが世界と世界の間であることはリアに分かる。

「ほぼ皆、寝てる。下僕は、先に帰ったわね」

下僕と呼ぶ白い猫兼金髪の少年は元の世界に先に帰っている。先にとは言え、帰ったら時間差は無いも同然だ。
『不死英雄』達も意識がない。電気のスイッチをオンオフするような彼等だが、今は電源が落ちている。
元の世界に戻ったら電源は入るだろうと、リアは放置した。
待っていれば帰られるだろうとリアは暇そうに外に出ると、盟約者であるアディシアの側に座り込んだ。
亡霊のような状態なので出て地面を踏んでも、足跡も何も残さない。

「……波の音?」

リアがもう一度、空間を認識しようとするとそこは海になっていた。
透明な砂浜に透明な海がある。海が規則正しく波を打ち付けている。浜辺にアディシアは寝ている状態となった。
誰かの気配がして、リアは振り向く。

「……大丈夫。危害を加える気はないよ」

そこに居たのはハニー・ブロンドの髪を伸ばし、ヒモで一本に縛っていた蒼のコートを羽織った少女だ。
笑っている。中世的な容姿をしているが、リアは少女と判断した。

(ヒトね……)

「別にそんなに警戒しなくても」

緩やかな警戒はしておくべきだった。世界の狭間に来られるような者は多くはない。
今の状況を例えて言うならば、自分しか居ない密室の部屋に突然人間が現れたようなものだ。リアのことは
認識されている。出るための存在濃度は最低限であるため、知覚するのは難しいが、ヒトである彼女は簡単にやっていた。

「あー、そうだなぁ。神様、て言われてもおかしくない存在かな?」

『貴方が呼んだの?』

神様と呼ばれる存在は人間よりも大きな力を持った者だ。彼女は大量の力を持っている。
アディシアの姿が揺れているように彼女には見えたらしい。リアの声は彼女にだけ届くように設定している。

「うん? 私が呼んだ訳じゃない。むしろ呼ばれた方なんだけど」

呼ばれた方だと言われリアは周囲を探る。彼女の力の源が、この場所と同じだ。

「たまにあるんだ、こうゆう事。君たちみたいに渡り歩く者が、ね。休息を求めてやってくる」

そう言われたがリアや『カルヴァリア』はここへ来たことはない。彼女は言葉を続ける。

「ここは"はじまり"だからね。酷使された魂が、癒される場所なんだよ。だから、安心してゆっくり休むと良い」

世界というのは様々な産まれ方をしている。
タマゴから世界が産まれたとか、天と地が産まれてから世界が産まれたとか、少女の見ている夢だとかあるが、
この場所は始まりであり、渡り歩く者の魂が癒されに来る場所のようだ。
アディシアも眠りたかったのか熟睡している。

(彼女が始まりを確定したから、こうなのね)

彼女が神の力を得た時に、あるいは得る前に始まりの力とされるものを海のようなと認識したためにこうであるようだ。
視界をリアは切り替えると、その空間にはアディシアと彼女以外の姿はなかった。



アディシアがイェオリ・エンスクレスに案内をされながらセイクレドの神殿を巡っていったが、アディシアがゲームや小説で
見たことがあるような者と出会ったりした。そのうちの何人かはレイヴン程ではないがラスリアの力を感じていた。

「これで一通りは回ったな」

「いろんなヒトが居るんだね」

「あの人が、引っ張り込んでるから」

『創造神ね』

セイクレドの組織というのはトップにサクヤが居て、その下にサクヤを支えるとされる三士があり、
それぞれに長が居る。三士が肉体系、情報系、魔術系と大分されている部署をまとめていた。
イェオリが居る警備部は猛士が統括していた分類されている。
猛士には警備部の他にも、荒事を解決するための傭兵部隊があった。
傭兵部隊は色事にやることが決まっているようだったがアディシアからすると傭兵は
金銭で雇われて本人からすれば直接の利害関係のない戦争に参加する者であり、使い方が間違っていると
想ったのだがリアが、”サクヤか、創造神の解釈が間違っているんじゃないの?”と伝えてきた。
アディシアは心中で頷いておいた。猛士には食堂が何故か組み込まれていたが猛士の長が料理好きだったから
組み込まれたらしい。
残りの二つの三士は術士と機士であり、術士が統括しているのは、医療部、薬学部、地学部、魔術部で、
機士が統括しているのは、情報部、資料部、開発部、諜報部でだ。
部署には隊長が居るとも聞いた。

「セイクレドはラスリアさんが想像した世界なんだよね」

「一部にしか知られてないが、組織としてのセイクレドなら、あの人が引き込んだ人等とかは知ってる。俺は、
この世界の出身だが、知ることになった」

”創造神”ラスリア・ユーグとしてラスリアはこの世界にに存在している。イェオリは複雑そうだ。

(あたしの感覚で言うとキリスト教の神が目の前にいるとかだろうな)

『この世界は八龍信仰なのよね。世界を根幹をなす八龍を信仰する』

リアがセイクレドの信仰について教えてくれた。

『ご苦労様。イェオリ。仕事に戻って。アディシア、こっちにちょっと引っ張るから、来てね』

「ラスリアさんの声……。ありがとう。案内してくれて」

天井から声が響くが周囲にはスピーカーのようなものはない。リアの通信のようなものだとアディシアは想う。
次に起こることは予想できたのでイェオリに礼を言っておいた。渋々ではあるが、彼はセイクレド内の部署を教えてくれた。
仕事であったとは言え、感謝する。
アディシアの姿が消えた。イェオリはそこに残された。

「飛ばされたか」

消えたアディシアに驚きもせずにイェオリは警備部へと戻る。ラスリアがアディシアを呼び寄せたようだ。
アディシアは別の部屋へとやってきた。空間が書き換わり、執務室のような場所に出る。

「書類が一段落してね。アリスが私に書類を押しつけてくるから」

「アリス、さん?」

「最後のサクヤで、セイクレドで一番偉いんだ。元は私が人間だった頃に創作したキャラでね」

アリスというのが組織としてのセイクレドのトップであるようだ。

「今は、ヒトなんだよね……」

「私自身は世界そのもの、とも取れるんだけどね。――風疾」

ラスリアが呟くと、空間が僅かに歪み、ラスリアの背後に透明な中性的な者が現れた。
中性ではあるがやや女性寄りでもある。青みのかかった銀髪をした濃い蒼色の瞳に白い肌をしていて、アシの方が透けていた。

『お呼びですか。マスター』

「世界と世界を繋ぐ表層部分の表層意識が風疾なんだ。私は風疾に名を与えてね。そこから縁があって。アディシアで言う
リアみたいなもんだよ」

「リアのこと知ってるんだ」

『貴方が意識の無いときに逢ったの。こんにちは。お邪魔しているわ』

アディシアの背後からリアが現れた。リアは黒い髪の長髪に赤い瞳をしている。着ているのは黒の長袖のワンピースだ。

「有幻界については聞いてる?」

「聞いた。……あちこちと繋がってる世界だって」

有幻界は多くの世界と繋がっている扉と鍵を有している。
そのため異世界からの敵も来たり、他の世界が助けを求めてくることもあるそうだ。

「行きたいところがあったら、言って貰えれば連れて行けるよ。その指輪はランダムで飛ばすみたいだし」

『黎明のリング』と『黄昏のリング』は異世界へアディシアを飛ばす力を持っているが、行き先は完全ランダムだ。
行きたいところと言うのは他の世界のようだがアディシアは行ってみたいと思える世界がない。

「まずはこの世界を楽しみたいんだよね。イェオリは竜とか天使とかこの世界は他から見ると何でもありとか
言っていたから」

「竜と契約するには技量がいるけれど、契約がしたいならしてみればいい。補佐はつけるよ」

「ラスリアさんもしているの?」

「八龍や、他の竜とね。後は式神を作ったりとかも出来る」

イェオリがセイクレドを案内しながら言っていたのだが、八龍はこの世界の根幹をなしている龍だ。
炎、水、風、地、光、闇、時、命、の属性を司っていて、龍との契約は、非常に難しいという。
これに対して竜は八竜に仕える四竜のことだ。その下にさらに下位の竜も居て、多種多様の属性を持っている。

「式神は陰陽師のだね」

セイクレドで言う式神は主に作られた存在であり、存在が主に関わってくるものである。
魂がないのだが、長年生きていれば別になるものらしいとイェオリが言っていた。イェオリは式神はいらないので
持っていないようだがセイクレドに所属している者は何人かは式神を持っているそうだ。

「良ければ式神とか作――」

ラスリアが言いかけた時、彼女は胸を押さえて、苦しみだした。地面に膝を突く。

『マスター!!』

「苦しそうだけど、どうしたの……?」

アディシアは慌ててラスリアに近付くとかがみ込み、ラスリアに触れた。触れたことでラスリアが僅かに
落ち着きを取り戻す。触れたアディシアは強い力を感じた。

「いつもの発作……今日はもう休むよ。蒼とか呼ばないと医療部も……みんな、出しちゃってるんだよね」

『蒼?』

「私の式神で、癒し手とも取れるんだけどね。アディシア、明日には案内してあげるから」

「分かった。お大事にね」

着いていた方が良かったのかも知れないが、余り分かっていない自分よりも分かっているセイクレドの人たちの方が、
ラスリアを何とかできるだろうとここは引いておく。リアが蒼について聞いていた。
リアの姿が消える。アディシアはラスリアの部屋を出ると、出会った人にラスリアが発作と伝えて、
部屋に戻った。

『契約している力に創造神が耐えられないのね。コップに満杯の風呂の水を注ぐようなものよ』

発作についてリアが説明する。

「創造神なのに?」

『――契約で創造神になったせいもあるけど、随分と下手な契約をしたものね。させたものと言うかしら』

(……お前に言われた通りあの人に触れたけど、カラスさんもお前の指示で触れたんだよね)

アディシアはリアに言われてレイヴンと握手して彼に触れた。ラスリアにも触れておけとリアに言われて触れるタイミングを
探していたのだが彼女が発作を起こしたこと触れられた。気遣う気持ちの方が優先していたので、触れたのは偶然だ。

『お陰で分かるわ。色々と』

(ラスリアさん……自分の作ったモノで遊んでる感じ、かな……お前が積極的? に動くとは)

不謹慎かも知れないがそんな風に見えた。この世界はラスリアが作ったものなのだから、ある程度は彼女の思い通りになるだろう。

『たまには、ね』

リアが笑った気がした。



送られてきた大量のデーターが礼拝堂の天井まで昇る。それは光の帯に似ていた。オルトが見上げているとコウが
透明操作鍵盤を打ち込みながら、謳を口ずさみ始め、謳とタイピング操作で光の帯が天球儀のように形作られていった。

「……情報を取ったことは、ばれない?」

「触れたときに『カルヴァリア』の悪っぽいのは気がつくかも知れないが、取ったことは気付かれないだろう。気付かれたとしてもだ。
こちらも人のことは言えないが、爆発しそうな爆弾の側に居て無事で居られる保証は何処にもないから調べたとでも言えばいい」

「創造神は平気みたいな顔をしていたけれど……、本体はその言い訳で通しそうだね」

ヨアとヴェンツェルも天球儀を眺めている。天球儀は内側に光が貯まった運動会の大玉転がしの球ぐらいになった。

「ロゼ、圧縮をよろしく」

「苦難、ご苦労様でした。コウ」

タイピングをやめたコウが透明操作鍵盤を消す。ロゼが天球に触れるとバスケットボールほどの大きさにした。
アディシアがラスリアに触れたときに『カルヴァリア』の力を通して彼女の情報を読み取った。
コウがまとめたのをロゼが縮める。ヨアは心配性ですね、とオルトは想うがそれぐらい慎重な方が良い。

「纏めてないけど、本体なら勝手に読める」

「本体は下手な契約と言ったけど、宿主と『カルヴァリア』もそうなんじゃ」

「これでもまだマシなんだけどな。ボク達は主が必要だが使い潰す。どっかの魔法少女みたいなもんだよ」

コウが前髪を掻き上げていた。
ルイスイとエルジュは契約について話している。『カルヴァリア』は盟約者と盟約を結んで対価と共に
願いを叶えたり出来るが、待っているのは破滅だ。魂をエネルギーとする『カルヴァリア』は盟約者に魂を
取るように圧力をかけていく。耐えきれなくなれば発狂して終わりだ。

「情報を精査しないと、理術のスキルは嫌だけど今から落とす」

ヴェンツェルが天球に近付いた。呟き、理術の技術を自分に落とす。これでコウほどではないが、
彼の技術が使えるようになった。透明操作鍵盤を出し、ウィンドウを開き、情報を直していこうとするヴェンツェルだが、
天球の側に浮かんでいるテニスボール大の青い硬球が浮かんだ。

「ヴェンツェル、それはなんですか? 情報の余り?」

「情報は全部、天球で纏めたはずだけど……こっち、開くよ」

オルトが気がついた。ヴェンツェルは白手袋をした右手指で天球に触れる。自分に落とすのではなく、ここで開いた。
情報が展開する。
展開した情報を『不死英雄』達は眺めた。


【続く】

最初の部分はリア視点の頂き物の話になります。次回から話が動くと良いな

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